ノコギリクワガタの特徴・生態や飼育・繁殖方法を詳しく解説。

ノコギリクワガタ(大歯型 千葉県船橋市産 オス:64mm)ノコギリクワガタ
ノコギリクワガタ(大歯型 千葉県船橋市産 オス:64mm)

ノコギリクワガタ(学名:Prosopocoilus inclinatus inclinatus)は、クワガタムシ科・ノコギリクワガタ属の原亜種で、北海道から九州にかけて国内に広く分布・生息している。個体数も多く、コクワガタとともに日本の代表的なクワガタである。大型のオスは数対の内歯を有する太く湾曲した長い大顎を持ち、「水牛」とも呼ばれ、人気を博している。本土産の原亜種以外に4種類の亜種が存在する。ここでは本土産のノコギリクワガタについてご紹介する。

近年では低山地においてミヤマクワガタ(環境指標昆虫)を圧倒する存在になりつつある。主に温暖化による気温の上昇が原因とされ、元々、高山帯で低温域を好むミヤマクワガタに対してノコギリクワガタの高温耐性が高いためと言われている。確かに私の地元である千葉県北西部でもコクワガタに匹敵する生息数と思わされることがある。幼虫の食性なども影響しているかもしれない。

ノコギリクワガタの外観的特徴

ノコギリクワガタ(大歯型 千葉県船橋市産:63mm)ペア

ノコギリクワガタ(大歯型 千葉県船橋市産:63mm)ペア

大きさ・色・形

自然界での大きさは、オス:35-70mm程度、メス:30-35mm程度のものが多く見られる。飼育環境下でも概ね同様の大きさのようである。
※もっと大きなもの、小さなものもも見つかっている。

オスは体の大きさにより、大顎の形状が異なる3種類に分類できる。これは他のクワガタにもみられる特徴といえるが、ノコギリクワガタでも別種と思えるほど形態的な違いが見られる。

  • 大型のオスは数対の内歯を有する太く湾曲した長い大顎を持ち、「水牛」とも呼ばれる(先歯型・大歯型)。
  • 中間的な個体は大型個体に比べ大顎の湾曲度合が緩やかな形状になる(両歯型・中歯型)。
  • 小型のオスは均一で細かな内歯を持つ直線的な、正に「ノコギリ」といえる外観の大顎が特徴である(小歯型・原歯型)。

色はオス・メスともに普通は赤褐色で赤みの強い個体や黒みの強い個体も見受けられる。

ノコギリクワガタの分布と主な産地

分布域は北海道から本州、四国、九州のほぼ日本全土と朝鮮半島周辺と幅広い。原亜種内でも生息地による地域個体差がみられ、伊豆大島産や南九州産が比較的大型化しやすいことなどが知られている。

ノコギリクワガタの亜種

ノコギリクワガタ原亜種の亜種は以下の4種とされている。

●ノコギリクワガタ(原亜種)グループ
・ミヤケノコギリクワガタ(仮称)【分布:伊豆諸島(新島、式根島、神津島、三宅島)】
・クチノエラブノコギリクワガタ【分布:鹿児島県(口永良部島)】
・クロシマノコギリクワガタ【分布:鹿児島県(黒島)】※採集禁止
・ミシマイオウノコギリクワガタ【分布:鹿児島県(硫黄島)】※採集禁止

原亜種の分類ではさらに以下のものが知られている。

●ハチジョウノコギリクワガタ(原亜種)

●アマミノコギリクワガタ(原亜種)グループ
・オキナワノコギリクワガタ
・オキノエラブノコギリクワガタ
・イヘヤノコギリクワガタ
・クメジマノコギリクワガタ
・トカラノコギリクワガタ
・トクノシマノコギリクワガタ

●ヤエヤマノコギリクワガタ(原亜種)

ノコギリクワガタの生態と習性

ノコギリクワガタの成虫の生態と習性

活動時期は6月から10月位。地方の広葉樹林の山間部はもとより、都市近郊のちょっとした雑木林でも見られ、クヌギをはじめ、ナラ類、カシ類、ニレ類等のブナ科、ヤナギ類の樹木の樹液につく。桃、梨等の果樹園でも普通に見られる。

基本的に夜行性であるが、ミヤマクワガタ等と同様、日中も活動している個体も珍しくはない。オオクワガタやコクワガタ等のドルクス類と異なり、樹洞や樹皮の下に隠れることは少なく、振動や衝撃を感じると足を畳んだ擬死行動をとり樹上から落下してくる。この習性を利用した樹を蹴る「キック採集」なる方法でもよく採集されている。灯火にも集まるので、街灯などでの採集例も多い。

ノコギリクワガタのペア。このようにメイトガードをしている時が多い。

ノコギリクワガタのペア。このようにメイトガードをしている時が多い。

樹上でエサ場を確保したノコギリクワガタのオスはメスとペアでいることも多く、たいていはオスがメスに覆いかぶさるようなメイトガードと呼ばれる保護行動をとっている。交尾も基本的にはこの状態で行われることが多いようだ。交尾を終えたメスはクヌギ等の広葉樹の倒木や立ち枯れの土中部付近に産卵する。

なお、夏から初秋に羽化したノコギリクワガタは、翌年の初夏になるまでそのまま蛹室内で休眠することが知られている。休眠期間を終え、成虫として活動を開始してからの寿命は短く、数か月から半年程度。飼育下でも翌年まで生き残るものはほとんど無い。

ノコギリクワガタの幼虫・蛹の生態と習性

メスによって産みつけられた卵は3週間から1ヶ月程度で孵化する。孵化した初令幼虫は朽ち木に潜りこみ、その朽ち木を食べて成長する。分解が進んだ朽ち木が混じった土中にも生息するようだが、付近に朽ち木がある環境では、基本的に朽ち木に潜り込むようである。細い朽ち木でも器用に食い進む。

ノコギリクワガタの3令幼虫。まずまずの成長度合いのオス。

ノコギリクワガタの3令幼虫。まずまずの成長度合いのオス。

ノコギリクワガタはヒラタクワガタ等と同様、いわゆる「根食い系」と呼ばれる種であるので、朽ち木は劣化が進み、水分量がやや多めの柔らかいものを好むようだ。朽ち木内で2度の脱皮を経て3令まで加令すると、朽ち木を出て、付近の土中に蛹室を作り蛹化する。(これは朽ち木内に蛹室を作ると自力で脱出できないことが大きな理由とされているが朽ち木内でそのまま蛹室を作る個体もいるようだ)蛹化後、1ヶ月程度で成虫に羽化するが、多くの場合、そのまま蛹室内で翌年初夏まで休眠してから成虫としての活動を開始する。

ノコギリクワガタの越冬形態、幼虫の期間、休眠の有無等には、産卵・孵化の時期、羽化の時期によりかなりのバラツキやパターンがあるようだ。特に、成虫としての活動開始時期が遅いことや、産卵が晩夏や初秋となり、孵化までの期間も長めなだけバリエーションが増える。

ノコギリクワガタの飼育方法

ノコギリクワガタの成虫の飼育

ノコギリクワガタの成虫の飼育は容易だ。飼育セットの組み方は以下をご覧いただきたい。1ペアなら3日程度でのゼリー交換と週1程度の加水に気を付ければ常温でも10月位まで生存させることは難しくないだろう。

ノコギリクワガタの成虫用飼育セットを組んでみよう。
ノコギリクワガタの成虫用の飼育セットを組んでみよう。こちらも特に拘りがないのであれば、あっけないほど簡単だ。ミヤマクワガタの成虫飼育にも基本的に同じものを使用できる。止まり木等のアクセサリーは産卵木を使用すればいいだろう。ノコギリクワガタや

ノコギリクワガタの幼虫・蛹の飼育

ここでは、飼育下(冬季加温)における一般的な話をしよう。

ノコギリクワガタの成虫の活動期間は概ね6月から8月にかけてだ。ペアリングや産卵セットもほぼ同時期だから割り出しは早くて8月中、9月になってしまうことも多いだろう。20度前後の温度管理で10月、11月と加令させ、3令幼虫で越冬させるのが一般的だ。越冬後、4月から5月にかけて蛹化し、6月から7月にかけて羽化することが多い。そしてそのまま、あるいは専用ケースで休眠。翌年6月から7月に成虫としての活動を開始する。ほぼ、丸2年だ。

割り出しによって得られた幼虫の飼育は「菌糸ビン」でも「マット」でも可能である。なお、ノコギリクワガタは卵・初令初期の幼虫の場合、添加物等を嫌う傾向があるようなので、少し成長するまでは産卵セットの廃材や無添加系のマットで飼育した方が無難だろう。初令後期や2令幼虫まで成長していれば他のクワガタと同じように扱える。

参考までにウチの原則的な交換サイクルは以下のようなものだ。1本目のかわりにケースによる多頭飼育をすることもある。

1本目:550ccボトル(3か月程で交換)
2本目:オス850ccボトル、メス550ccボトル(3か月程で交換)
3本目:オス850ccボトル(※成長度合いの必要に応じて)

マット飼育の場合、菌糸ビンのように食痕がはっきりしないので期間を決めた交換の方がいいだろう。幼虫はオスでも成長して10-15g程度、メスなら5-8g程度、これ以上ならかなりの大型個体といえる。

問題は、数は少ないが羽化の時期によっては休眠をしないで活動する個体もあることだ。ウチではメスの一部が5-6月にかけて羽化し、そのまま成虫としての活動をはじめ、その年の秋口に寿命を迎えた。オスは比較的低温で管理したこともあり、ほとんどが7-8月の羽化になった。これらの個体の多くは翌年まで休眠した。

この辺の見極めは非常に難しい。ウチでは原則的には休眠するものと考え、羽化した個体が落ち着いた頃(羽化後1か月)、湿らせたティッシュと水苔に包んでルアーケースに入れ休眠させている。もし、暴れてティッシュや水苔をボロボロにする個体がいるようなら、その個体は活動開始と考えて普通に飼育しよう。

このような休眠期間に関する情報はネット上でもほとんど出ていない。唯一、ノコギリクワガタに特化したここの情報がすごく役に立った。ウチなんかよりずっと詳しい(笑)。

【参考文献等】
参考 Wikipedia ノコギリクワガタ
参考 BE KUWA 35号 2010年春 日本のノコギリクワガタ大特集!!(むし社
参考 BE KUWA 55号 2015年春 日本のノコギリクワガタ大特集!!Part2(むし社
参考 Enjoy Breeding! ノコギリクワガタ/カブトムシ

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